昨日は認知行動療法の中のアサーションについて語りました。
アサーション自体は認知行動療法とは別に人権擁護の流れから生まれてきたものですが、それを認知行動療法の中に取り入れていると言った方が正確です。
アサーションは自分も相手も大切にする表現技法のことを言います。
私たちは人との関わりにおいて、思っていることや言いたいことを我慢してしまったり、あるいは人を傷つけてしまうことがあります。
人間である以上、人と関わる以上、これは避けられないことです。
八方美人であるということは不可能です。
意識的にかあるいは無意識的にか、八方美人的に人と関わるタイプの方がいます。
こういった方は自分は誰も傷つけていないと言うかもしれません。
なるほどそうかもしれない。ただ、その方に聞きたいのです。
あなたは自分自身を傷つけていませんか?
このように人と関わるうえにおいては、誰かを傷つけてしまうことがままあります。
ただ、そういった中でも、自分も他人も大切にする表現方法があるのではないか?
それがアサーションなのです。
アサーションには基本的な考え方として、人にはアサーティブ権があると考えます。
細かく言えば色々ありますが、アン・ディクソンという方が述べているものを以下に抜粋します。
1.私には、自分の要求を言葉に表し、日常的な役割に縛られない一人の人間として、物事の優先順位を決める権利がある。
2.私には、賢くて能力のある人間として、対等に、敬意を持って扱われる権利がある。
3.私には、自分の感情を言葉で表現する権利がある。
4.私には、自分の意見と価値観を述べる権利がある。
5.私には、「イエス」、「ノー」を自分で決めて言う権利がある。
6.私には、間違う権利がある。
7.私には、自分の考えを変える権利がある。
8.私には、「分かりません」という権利がある。
9.私には、欲しいものを欲しいと言い、したいことを言う権利がある。
10.私には、他の人の問題に責任を取らなくていい権利がある。
11.私には、人から認められることを当てにしないで、人と接する権利がある。
(アン・ディクソン「第4の生き方」)
ちなみにアサーションしない権利というものもあります。
これは何を意味するのか?
それは私達はいかなる選択をしてもいいということです。
つまり、私達には自分で自分の行動や人生を選びそれに責任を取る権利があるということです。
言いたいことを言ってもいいし言わなくてもいいのです。
私達には自分の行動を自分で選択し、そして自分が自分らしく生きる権利があるのです。
人との関わりにストレスを抱えている人にはこれが損なわれていることが多いのです。
社交不安障害の方はアサーティブに生きていません。
社交不安障害の方は自分で自分の行動を選んでいるというよりも、人にどう思われるか、人にどう見られるかという「他者の目」を基準に行動しています。
そこには自分自身はいないのです。
アサーションの具体例
アサーション権とは、人には自分の行動の選択を自分で決められる権利があるということであり、他者にも同様にそれがあるということを意味します。
右に行ってもいいし、左に行ってもいい。
好きと言ってもいいし言わなくてもいい。
選挙に投票していいししなくてもいい。
ただしそれらを選択する結果に伴なう責任は自分で取ること、そして他者の権利も認めること。
これがアサーションです。
それで今日は具体例で話します。
<例>
あなたは最近毎日遅くまで残業し体調もあまり良くないです。今日は早めに布団に入って寝ようと思っていました。すると友達から電話がかかってきました。いやな予感がしながらも電話に出ました。「もしもし・・・」
※上記の時皆さんはどんなふうに行動しますか?ちょっと考えてみてください。
<行動例3パターン>
①攻撃的な自己表現
「お前、いったい何時だと思ってんだよ!ほんと非常識だよなぁ、明日にしろ明日に」
う~ん、こりゃ私にはなかなか言えない・・・
②非主張的な自己表現
(いや~、まいったなぁ・・・長くなるかもしれないなぁ・・・断るとムッとするかもしれないしなぁ・・・)などと内心で揺れながら「どうしたの?・・うん、・・・うん・・」などと話を聞いていく。
ありゃまぁ、これは私にドンピシャかも。
③アサーティブな自己表現
「ごめん、最近残業がずっと続いててちょっと体調悪いんだ。短い時間なら大丈夫だけど長くは聞けそうにないんだ。もしくは明日かけ直してもらえる?」
う~ん、これは自分も相手も大切にしてますよね。こんな表現できるといいですね。
では、もう一つ
<例2>
あなたの部下に元気はいいけどちょっと抜けてておっちょこちょいな鈴木君がいるとします。鈴木君の些細なな確認ミスが改善しないことにあなたは最近気になり始めています。案の定、また鈴木君が安易なミスしました。上司としてここは何か言わなければなりません。あなたは何と言いますか?
さぁ、いかがでしょう?
①攻撃的な自己表現
「おい鈴木!ちょっと来い!なんでお前はこんな単純ミスばっかしてんだ?!大体なぁ・・・」
ちょっと怖いですねぇ。
②非主張的な自己表現
(不満に思いながらも抑え込んで努めてにこやかに)「鈴木君、ちょっといいかな?どうしたのかな?何か問題でもあったのかな?次からはしっかりいこうね」
う~ん、弱っ。
③アサーティブな自己表現
「鈴木君、ちょっといいかな?いったいどうしたんだ?ちょっとがっかりしたぞ。君ならそれぐらいやれてもいいはずだ。次からはしっかりやってくれよ」
これは自分の気持ちもきちんをアイメッセージ(「私は~」で始まる文章。ここでは「(私は)ちょっとがっかりしたぞ」にあたる)で伝えているアサーティブな表現ですね。
社交不安障害の方々は基本的に非主張的な自己表現になることが多いです。いきなりアサーションでやろうと言ってもそう簡単にいくものではないと思います。そういった時には一番分かりやすいアイメッセージで伝える技法を覚えておくといいです。
(例)
・きついことを言われた時に「なんであなたはそんなこと言うの?」ではなく「私はそう言われると傷つく」
・いつも迷惑をかけてばかりの人に「もう・・・しょうがないなぁ・・・」ではなく「私は不満だ」
・余裕が全くない時に無理な要望をされて「あ、全然平気ですよ」ではなく「(私は)ちょっときついです」
アサーティブな表現ができるようになると自分にとっても周りにとっても良いことですよね。
Social Skills Training
今までは認知行動療法のアサーションについて語りました。
一連の認知行動療法シリーズの最終回でSSTについて語ります。
SSTとは生活技能訓練(Social Skills Training)の略です。
これは1970年代にアメリカのリバーマンによって体系化されたものです。
当初は統合失調症など精神科領域の患者向けのコミュニケーションスキルアップを目的にグループワークが開催されましたが、現在はその対象はソーシャルスキルの不足により社会生活に支障をきたしている人全般に適応が広がっています。
ひきこもり、ニート等の社会経験の乏しい方、あるいは社交不安障害という名前の通り、社交面で不安を抱えている人にはうってつけではないかと思います。
具体的なグループワークの進め方ですが、まず参加者の実際の社会生活での人間関係の悩み等を聞いていきます。そして実際の場面をロ―ルプレイして、みんなでフィードバックし、さらに良くなる点を聞き出し再ロールプレイをやります。といったものが大まかな流れです。
SSTにはルールがあり、批判禁止、人の良い所を見つける、イヤな時はパスあり、などといったもので、プライバシーが守られた安全な環境で、それぞれ共通するような人間関係の悩みの解決策を探っていきます。
具体的には、例えば挨拶のタイミングが分からない。
あるいは、上司に質問したいが忙しそうで声をかけづらい。
友達が何人かで話している輪に入りたいが、どうすれば良いか分からない。
会社などへの電話の仕方が分からない。
こういった課題に対し参加者の意見を元にして、新たな行動パターンを実際に試し、成功し、獲得することで、自信を高めていくのです。それは社会生活の向上のみならず精神的にも安心をもたらします。
まさに認知行動療法の中の行動療法に該当し、行動を通して心理的変化をもたらしていくのです。