森田神経質の性格特徴

森田神経質というものがあります。

これは我が国発の数少ない心理療法である森田療法の創始者、森田正馬の名にちなんで類型化された性格傾向を言います。

何らかの気になることに囚われ、気にすれば気にするほど余計に囚われていくという心理機制を持ちます。

あがり症、赤面症、強迫性障害、パニック障害、自臭症、書痙、会食恐怖、視線恐怖、吃音、醜貌恐怖、等々、ざっと挙げただけでも結構あります。

森田療法学会という団体がありますが、そこで森田神経質診断基準案というものが作成されています。そこでは、性格特徴として二つのものが挙げられています。(以下抜粋)

A.内向性、弱力性
1.内向性(自分の存在全体について、過度に内省し、劣等感を持つ)
2.心配性(細部にこだわり、なかなかそこから抜け出せない)
3.対人的傷つきやすさ、過敏性(些細な人の言動に傷つく、人の言動が気になる)
4.心気性(自分の身体や感覚に対して過敏となりやすい傾向)
5.受動的(イニシアティブを取れない、消極的、新しいことが苦手)

B、強迫性、強力性
1、完全欲(強迫的に完全にしないと気が済まない)
2.優越欲求(負けず嫌い)
3.自尊欲求(プライドが高い、自尊心が強い、人にちやほやされたい)
4.健康欲求(常に心身とも健康でありたい、全く不安のない状態を望む)
5.支配欲求(自分や周囲を自分の思い通りにしたいという欲求が強い)

いかがでしょう?
どれぐらい当てはまったでしょうか?

ここで確認しておきたいことがあります。
あがり症や会食恐怖、赤面といった方々は、一見すると非常に内向的な性格の方々に思えるでしょう。

しかし、その内向性、弱力性の裏には、強迫性、強力性という、生きるうえでの強い欲望が隠されているのだということです。

つまり、森田神経質症者は、かくありたい、こうでなければならないという強い意識があるからこそ、そうならない現実に失望し、自己否定してしまうのです。

その強さは負の感情についてもそうです。

不安、緊張、恐怖といったものをなんとかしなければと考えます。
それらを打ち消そうとします。

しかし、そもそも論として湧き上がる感情を打ち消そうとしても打ち消せるものではありません。

そして、不安の背景にはより良く生きたいという欲望があります。

より良くありたいからこそ不安が生じる。
不安があるからこそより良く生きたい。

これらは表裏一対です。
表裏一体の片側をなくすことは不可能です。

ましてやあがり症の方の不安は半端ありません。
つまり、生の欲望もまた大きいのです。

この、人より強い生の欲望のパワーがいびつな形で発揮されたのが、あがり症なのです。

かくありたい、より良く生きたい欲望を阻むものとして不安や緊張を捉え、それをなんとかしようとそこに一点集中して攻撃します。

しかし、あがり症の方は知りません。
それは火を消そうとして実は、火に油を注ぎ続けているに過ぎないことを。

不安を消そうとして、そこにターゲットを当てて取り組んでも、それで消去されるのではなく、より元気になっちゃうんです。

しかも、あがり症の方は、その生来の生の欲望のエネルギーを全てそこに注ぎ込んじゃうんですね。

そうして油田で燃え上がる炎のように不安は燃え続けてしまうのです。
本来ほっとけば、やがて消えていくのにもかかわらず。

エネルギーの注ぎ方を変える

あがり症とは実に皮肉な病です。

良くなろう、治そうという本人の生きる欲望の強さに比例して、それが強ければ強いほど逆に自分を苦しめるのです。

なので、なすべきことは、この本来持っている生きる欲望の強さを抑えたり消したりするのではなく、より建設的なことに遺憾なく発揮できるように促していくことが大切なポイントになります。

建設的と言うと言い過ぎかもしれませんが、建設的でなくても日常の中でありふれたことでいいのです。

掃除、洗濯、勉強、書類作成、料理、etc.
そういった生活体験への工夫や努力などにエネルギーを使うのです。

不安と緊張にエネルギーを注いではいけません。
エネルギーのベクトルを変えていく必要があるのです。

不安や緊張だけでなく、あらゆることに通じます。

人にどう思われるか、あぁ思われるんじゃないかこう思われるんじゃないか、あるいはまだ来ぬ未来がこうなるんじゃないか、あぁなるんじゃないか。

そうして思考と感情の全てが自らの中でぐるぐるとして、底なしの負の化け物にエネルギーを与え続けるよりも、さっさと行動すること。

あがり症の方の思考はハッキリ言って無駄です。
IQが180あっても考え続ける限り無駄。

そんな事より考えずに行動することのほうがどれだけいいことか。

思考に従うのではなく、居心地などの感覚に従うこと。

「~べき」、「~ねばならない」という「should」に従うのではなく、「~たい」という「want」に従うこと。すなわち、やるべきことではなくやりたいことにエネルギーを注ぐこと。

繰り返し何度でも言います。

症状にエネルギーを注いでも無駄です。
症状にエネルギーを注がずして症状を軽減する、これがあがり症の克服です。

あがり症者、対人恐怖症者などの森田神経質症者は、その生来の強い生きる欲望を健全な方向に向けていった時、本当の自分を生き始めるに違いありません。

(参考記事)
あがり症(対人恐怖症、社会不安障害)の真実~治せば治らず