Aさんの死

つい2カ月前、年末に一人の方がなくなりました。
その方は私が以前いた施設の利用者の方で統合失調症の障害を抱えていました。
仮にAさんとします。

Aさんと私は同世代で、たまに芸能人ネタやマージャンネタで話をしたものでした。

Aさんは一つの特徴を持っていました。
それは服薬の量です。

 

施設の主治医からは、それほどの大量の薬を飲んで通ってくるだけでも奇跡と言われるぐらいで、ただ歩くことさえもままならない様子でいつもフラフラしていました。

私は以前、Aさんと精神科病院の隣にある薬局で会ったことがありました。
その時私は別のBさんの通院同行をしており、Bさんの服薬量があまりに多すぎるので減薬の調整などの相談をしてきた所でした。

薬局のベンチにBさんと並んで座っているとふとAさんが入ってきました。
あぁ、この病院だったんだなどと話しました。

やがて私と並んで座っていたBさんが先に呼ばれレジに向かいました。
Bさんは薬局で薬をカゴに入れてもらいましたが、10×20センチぐらいのカゴにずらーっと薬が並び、わお!とその量に私は面食らいました。

次にAさんが呼ばれました。
会計を終えたAさんの方に何気に目をやりました。

私はギョッとしました。
カゴからはち切れんばかりに薬の袋がカゴの丈を超えて詰め込まれていたのです。
高さ7,8センチぐらいのカゴからはみ出て20センチぐらいの高さになっていました。私は瞬間的にこれは人間の飲む量ではないと思いました。

 

統合失調症の方々が主に飲む薬には抗精神薬というものが挙げられます。
その抗精神薬の服薬量の基準を計る測定法としてクロルプロマジン換算というものがあります。
その値が1000を超えると多量服薬と言われます。

700とか800ぐらいでちょっと多めかなといったところです。

 

私の同僚がAさんのクロルプロマジン換算を計った所、10,000を超えていたようなことを言っていた記憶があります。桁が二つ違っています。

ちなみにこれはあくまで抗精神病薬だけの測定値であり、私の担当ではなかったので正確には分かりませんが、おそらくAさんは他にも抗不安薬やSSRI、副作用止めの薬などといった別の薬も飲んでいた可能性が高いと思います。

日本の精神科医療は諸外国と比べて多量多剤服薬の問題が指摘されており、2014年度から要件に該当すれば診療報酬の減額の対象となりました。

 

ちなみに今回亡くなられたAさんの死因はまだ分かっていません。司法解剖されるとは聞きました。
私はどうしても疑念を抱かざるを得ないのです。
死因が長年の過量服薬による心疾患だったのではないかと。

ここで言っておきたいのですが、私は薬を否定するものではありません。
適切な量の処方によって、様々な精神疾患の状態が良くなるのは間違いないと思います。

例えば、統合失調症がここまで予後が良くなったのは抗精神薬の発明によるのである事は間違いありません。
それによりどれだけの人が救われたことか。

社交不安障害においても薬の効果は実証が得られています。
まぁ、だからこそ処方されるのですが。

ただ、私がどうしても引っ掛かるような気持ちになるのは、安易に薬を処方し、時に簡単に増やしているように思える医師に出会った時です。
他にも言いたい例がありますが今日は控えます。

おそらくAさんを超える服薬量の人に会うことは二度とないでしょう。
Aさんの人生とは?と考えると何かやりきれない思いがするのです。

 

頭でっかちを緩める質問

あがり症の人の特徴に「べき思考」、「白黒思考」といって、偏っているともいえる考え方が挙げられます。「べき思考」とは、かくあるべし、こうでなければならないなどといった高い理想像が強く自分を縛る考え方です。

あがり症の人にとっての「べき思考」は、現実とはかけ離れた理想の自分から現実の自分を見下ろすため、決してプラスになることはありません。

100点の理想の自分から今の自分を見ると、はっきり言って100点以外は人にあらずです。
90点取ろうが、それこそ99点取ったとしても理想の自分からは必ずマイナス点となるのです。

また、「白黒思考」とは白か黒かどっちかの極端な思考を取ることです。
その間であるとか、曖昧さは許されません。

これは妥協を許さない場面では、この思考は有用となるでしょうが、一方、曖昧さや妥協などが許されるような場面においては融通性の利かない頭でっかちの思考ともなります。

あがり症の人にとっては「白黒思考」もまた、自分の些細な欠点を断じて許せないという思考なので自らを苦しめます。

こういった「べき思考」、「白黒思考」といったものは、特にあがり症の方が恐れるシーンを想像した時、そして実際のシーンにおいて、より強く意識されます。

こういった偏っているともいえる思考に対して、認知行動療法は有用となります。
認知行動療法には様々なアプローチがありますが、7つのコラムと呼ばれるワークがあります。

実際の場面で過度に緊張した時のことを喋ってもらいます。
その時いろんな考えが湧き上がるでしょう。
「自分があがっているのがばれてしまった。もう終わりだ」
「声が震えてしまった。見ていたあの人は私のことを軽蔑するに違いない」

認知行動療法では、こういった場面でバランスのとれた思考になるようアプローチしていきます。なぜなら、それが本人の苦しみを和らげるからです。

 

具体的時には次のような質問を投げかけます。

「もしあなたが、同じような人を見た時、なんて声をかけてあげますか?」
「もし、あなたの親しい人が今のあなたを見たらなんて声をかけてくれると思いますか?」
「元気な頃のあなただったら、こういった時どのように考えますか?」

 

想像してみてください。
あなたがここ最近凹んだ時、その時浮かび上がった考えに対してこのような質問をされたらなんて答えますか?
そしてその時、どんな気分になるでしょうか?