あがり症の克服法は世に溢れています。

ネットを検索すればそれこそ怪しげなものから、医療的なものまで、かと言えば薬だったり、民間療法的なものまで、様々にあります。

何が良くて何が悪いのでしょうか?
正直言ってネットで検索している限りは明確な答えはなかなか出せないのかもしれません。

また、客観的に見たとしても何が良いか悪いかは一概には言えないものがあります。

論外なものもあまりに多いですが、やはり世で一定の評価を受けているものには一長一短があります。

極端な話、聴衆をじゃがいもと思うという発想でうまくいった人もいるわけです。

基本的には私はこのじゃがいも理論は否定しますが、これでうまくいったということは私の考えと違う療法でもうまくいくこともあるという証明でもあります。

とはいえ、世に知られるもの、しかも最も専門性かつエビデンス(実証)がなされているものですら治らなかったと言う方が私の元に相談に来られます。

その代表例はやはり精神科あるいは服薬といった所でしょう。
薬が効かなかった、薬が効いているのかどうかもちょっと分からないなんて方もいます。

薬にもいろんな種類のものがあり、ある方は、その中でも最も即効性のあるβブロッカーというタイプの薬ですら一切効かなかったと言っていました。
これには正直驚きました。

あくまで効いたかどうかは主観の世界であり、客観性はどこまであるかは分からないのですが、そういったことを仰る方もいるわけです。

世にある治療法のどこまでを網羅できたかどうかは分かりませんが、私がこれまで見聞きしてきたもののほとんどが対症療法でした。

例えば、姿勢を正せば良い、薬で不安を抑えれば良い、一語一句暗記すれば良い、話し方が上手になれば良い、呼吸法を身に付ければ良い、発声法を訓練すれば良い、場慣れすれば良い、等々といったものです。

これらはなるほど、軽減することもあるかもしれません。

しかし、果たしてこれで本当に完全に回復するのでしょうか?

対症療法では、ハッキリ言えばあがり症の症状を生み出す本質的な部分にはアプローチできません。

だから、対症療法で治っても再発したり、あるいはまた別の悩みが生じるのは、ある種必然です。

 

なぜ、こうも言い切れるのか?

そこには、あがり症を発症させる仕組みにこそあります。
その仕組みとは、「症状へのあり方」と、「この世界へのあり方や見方」にこそあります。

シンプルに言います。

「症状へのあり方」とは、症状へのこだわりや執着といったものです。
症状を抑えよう、あるいはなくそうという考えが、そこに意識を向け続けることによって逆効果となっていることにあります。

そしてもう一つ、「この世界へのあり方や見方」とは、あがり症の方は、あたかも敵国にいるかのようにキョロキョロ挙動不審に、他者の中に自分を否定する要素を毎日毎時探しまくること。

 

この二点があがり症を維持させる原動力となっているのです。

つまり、脳の以上でも、心臓の脈拍の異常でも、自律神経の異常でもない、性格の歪みでも、人間性の問題でもなく、ただただ、過剰なまでの症状へのあり方とこの世界への見方が作り出した悪循環の帰結なのです。

そうして、その見方あり方が続く以上、症状は継続的に生み出される。
それが、一年二年と続いていく中で、やがて心の生活習慣病のようにこの状況が維持・強化されていくのです。

 

だから、あがり症はこういった悪循環の仕組みの帰結なのですから、これら症状へのあり方と生き方の改善なくして、本当のあがり症克服はないのではないかと思うのです。

特に、私は生き方や見方が変われば、あがり症を治さずしてあがり症は改善するに違いないと思っています。

あがり症の方は、単にあがることによる動悸、不安、恐怖という症状でさえ苦しいのに、そこに輪をかけて、誰にどう思われたに違いない、自分は恥をさらしてしまった、軽蔑されたに違いない、この職場ではもうやっていけない、なんて自分はダメな人間なんだなどと、傷口に塩をこれでもかと塗りたくります。

この痛みはあがり症の方は身に染みているでしょう。
半端ないです。

あがりという身体の一時的苦痛に加えて、認知の偏りによって心理的苦痛をも与える。もしかしたら実は、この心理的苦痛の方が自己肯定感という根幹を蝕んでいくのかもしれません。

ところで、じゃあ、あがり症の方が家族の前であがってしまった時、同じような苦痛を感じるでしょうか?

一次的苦痛であるあがりの症状の苦痛は似たレベルでもしかしたら感じるかもしれません。けれど、二次的苦痛の恥をさらしてしまった、軽蔑されたに違いない、もう家族の一員としてやっていけないとまで思うでしょうか?

そうです、家族の前ではあがり症の苦しみは和らぎます。
あがり症でない人でさえも、敵に身を囲まれた状況で話す時はあがるでしょう。それだけのことなのです。

だから、あがり症の方が見ている極端に偏った世界~自分が隙を見せた時は斬られるかもしれないという敵国感覚を変えていけば良いのです。

他者を仲間と思って、自分は失敗しても大丈夫と思えたら、あがる必要はなくなるのですから。

あがりの症状は、戦時中の敵国の中で生き延びるために必要だったアラームなのです。

だから、デフォルトの「戦時中」という設定を「平和」設定に変えていく。「敵」の数を減らし、「味方」の数を増やしていく。

そこに答えがあるのではないでしょうか。