あがり症(社交不安障害、対人恐怖症)で悩まれている方にしばしば聞かれることがあります。

薬のことをどう思いますか?と。

なので、今日は薬のメリットデメリットと、服薬することに対する私の考えをお伝えします。

まず、前提として、私は精神科医ではないので専門性は有していないということを前置きしておきます。

それで、まずは薬の専門家である精神科医は薬な対してどういった見解なのかと言うと、当たり前かもしれませんが精神科医によって異なるでしょう。

薬だけで治ると仰られる方もいれば、薬を極力使わない方向での治療の進め方をなさる先生もいます。

そして、当時者の方は精神科医や心療内科医が話を聞いてくれないとよく仰られます。

けれど、実はこれは今の日本の精神科医療においては必ずあり得ることだと思います。

なぜなら、一つには精神科医は薬と体の専門家であって、話を聴く専門家ではないということ。

つまり、カウンセリング的な訓練や心理療法は、医師になる過程において詳しく学んでいないのです。

だから、精神科医の中には心理療法のことを詳しくは知らない方もたくさんいます。

そういった精神科医の場合は、薬による治療が必然になりますので、話を聞いて患者に効果を与えるという選択肢は持てないでしょう。

そして、もう一つが3分診療と言われる精神科医療の現状です。

たくさんの患者が来る中、どうしても患者の話をじっくり聞いている余裕はありません。

長くても初診で20~30分、再診になるとやはり数分で終わることが多いでしょう。そうでもしなければ患者全員を見ることができないからです。

心理療法を詳しく学んで実践していたとしても、カウンセリングのように一時間などじっくり聞くことはできません。だから、クリニックによってはカウンセラー付きの所もあります。

これが精神科医の実情です。

じゃあ、薬で治るのか?という問いに対しては、薬で治る方もいますし、治らない方もいるというのが答えになりますでしょうか。

ただ、そもそも私の元にご相談に来られるのは良くなっていない方なので、薬で良くなった方とは正直ほとんど会ったことがないのが実情です。

治る方もいるというのは、稀に聞いた例と、精神科医の方が書いている本にそう書いているからという、ちょっと弱い根拠です。

実際の調査では、服薬のみで治癒した場合の再発率が一番高く、次いで心理療法のみの治癒、一番再発率が低いのが、服薬+心理療法というデータがあります。

ちなみに、社交不安障害(あがり症)の方への処方薬としては大きく3種類あります。

第一選択肢としてはルボックス、デプロメール、パキシルといったSSRIと呼ばれるものが代表的です。主に抗うつ剤として処方されているものです。

次にデパス、ソラナックス、ワイパックスといったベンゾジアゼピン系の抗不安薬が第二選択肢。

ただ、ベンゾジアゼピン系の薬は即効性があり使いやすい一方、依存性や耐性などの問題があります。耐性とは段々効かなくなることです。

そして最後に、症状が重めの方に頓服として処方されるのが、インデラルといったβブロッカーと呼ばれる薬で、高血圧の治療薬でもあります。

βブロッカーは即効性があり、震えや動悸、発汗といった身体症状を抑えるものです。

このβブロッカーは正に対症療法の極みで、症状をシンプルに軽減させます。

もちろん、人前で喋る本番場面などに限定して使えば意味があるかもしれませんが、低血圧などの副作用でフラフラしたりする方もいます。

緊急時の頓服として割り切り、その場凌ぎにしか過ぎないということを承知の上で使うといいかもしれません。

では、ここで、薬のメリットデメリットを整理しておきます。


 

<薬のメリット>

・即効性がある。(特に抗不安薬《メイラックス、リボトリール等》 ※SSRI《デプロメール、パキシル等》は2週間~1ヵ月以上飲み続けてから効果が出ると言われています)

・緊急時の頓服として使える。

・その場をしのげる。

・うまく付き合えば、危険性は低い。

・薬を使って、成功体験を積むことができる。


 

<薬のデメリット>

・副作用がある。

・抗不安薬は特に依存性や耐性がある。

・年単位で継続的に飲み続ける必要がある。

・止めるのにも徐々に減らしていくため時間がかかる。

・いきなり止めると離脱症状がある。


 

私の立場としては、森田療法を実践される精神科医と考え方が近いです。

症状の程度によって処方し、極力、薬は出さない方向でやっていく考えの方が多いように感じますし、私もそれが良いと思います。

認知行動療法を実践されている精神科医は、心理療法+服薬というやり方が多いように思います。

この場合、薬重視でしょう。

というよりも、精神科医はやはり「聴く」訓練を受けていないので、たとえ認知行動療法が良いものだとしても、それを有効に使える精神科医は少ないでしょう。

と、認知行動療法の第一人者の方が仰られていました。はっきり言って同感です。

ただ、処方薬による治療しか選択肢がない精神科医の方は、薬を出すより他にないでしょう。

患者があがり症を治したいと言ったら、じゃあ薬を処方しましょう。
あまり効きませんと言ったら、じゃあ違う薬を処方しましょうか、あるいは量を増やしましょうか。

それしかできないのではないでしょうか。

私が思うに、薬というのは対症療法に過ぎないもので、あがり症(対人恐怖症、社交不安障害)の方特有の性格傾向を本質的に改善しない限りは、再発したり、違った悩みを生じてしまうように思います。

こういったことを総合的に考えて、私は薬は極力使わないに越したことはないと思っています。

ただし、薬を使うことで洒落にならない恐怖と苦しみを凌げるのなら、必要に応じて使い、その上で使う時はいずれ止めることを前提にして使った方が良いかと思っています。

そもそも、あがり症の克服は、症状へのあり方を変えること、そして生き方を変えることにあります。

決して症状を抑えることでも、症状をコントロールすることでも、話し方の練習をすることでもありません。

症状へのあり方、そして何よりも生き方を変えることこそが真のあがり症克服に繋がるに違いありません。

(参考動画)