あがり症(赤面症、書痙、どもり等)を改善するためのアプローチには様々なものがありますが、今日はそれをご紹介していきます。



【薬物療法】

まず大きく言うと、一つは医療的視点で、精神科医が取りうる選択肢です。
その中でまず挙げられるのが薬物療法でしょう。

第一選択肢としてはデプロメールなどのSSRIと呼ばれる薬が挙げられます。

次の選択肢としてはリボトリールなどの抗不安薬でしょう。
他には身体症状だけに焦点を当てたβブロッカーがあります。

薬物療法は選択肢の一つとして重要な意味があります。

当然ではありますが、一定程度の効果と即効性が認められるからです。
SSRIの有効率は50~60%と言われています。

緊張や不安を軽減することで、人前で話した際に思ったよりも緊張せず話せたことにより、自信が付いていき、やがて治っていくというケースはあると思います。

ただし、デメリットとしては再発の可能性があること。
心理療法に比べると再発の可能性が高いです。

また、副作用の問題や、坑不安薬などの場合は依存性や耐性があるため、服薬依存や多量服薬になりうる可能性もあります。

そして、心理療法のスキルのない医師が安易に処方に頼ってしまい、本来なら心理療法で治りうるものにまで処方してしまうこともありえます。


【精神療法】

次に精神科医や心療内科医が取りうる選択肢としては精神療法があります。

今の時代は精神分析の祖であるフロイトの手法は、エビデンス(実証)がないし結果もなかなか出ないので選択肢から外れてきており、最近増えてきているものでは認知行動療法があります。

認知行動療法は実際にエビデンス(実証)があるとして、2010年から精神科医が行うと診療報酬がつくようになりましたが実際どれだけの精神科医が実施しているかというと、非常に少ないのが現状です。

また、基本的には薬物療法と平行して行われることが多いのではないかと思います。

実際、単なる薬物療法よりも薬物療法+認知行動療法で行うと再発率が低いというデータもあります。

現在の精神科医療においては一つの選択肢と言えるでしょう。

ただし、私の実感としては、認知行動療法は症状に焦点を当てるという意味で、やや対症療法に近いような気がしています。

確かに効果はありますが、その人の本質的な性格傾向や信念にまで踏み込んでの効果は弱いように思います。

そして次に挙げられるのが森田療法。
これは数少ない日本発の心理療法で、症状に対処しないという東洋的な療法です。

対人恐怖症や赤面症、パニック障害、強迫性障害などの神経症と呼ばれる症状に対して有効です。

現在では海外にもその有用性が認められており、対象分野もうつ病、ガン患者、終末期患者等、様々な対象に広がっています。

森田療法を実践している医師の多くは、薬物は最低限にして、森田療法による心理的なアプローチで治療されていることが多いように思います。

森田療法は、その人の生き方にまで変化を及ぼす、本質的な療法と言えるでしょう。

ただし、デメリットとしては認知行動療法と違って診療報酬が付かないため、森田療法の知識がある医師が、診療時に森田療法の技法で面接しているというのが実態です。

もちろん、慈恵医大のように森田療法を専門としてやっている病院もありますが、森田療法の専門医は限られています。

森田療法医療機関
http://www.mental-health.org/medical.html

ちなみ薬物療法にしろ精神療法にしろ、医療のメリットとしては、保険適用であることです。

3割負担か、あるいは所得の少ない方は1割負担、非課税者になると負担なしになります。

自立支援医療(精神通院医療)について【厚労省】https://www.mhlw.go.jp/kokoro/support/3_05_01med.html

また、医療のデメリットとしては、精神科医は研修過程で面接スキルを専門的に学んでいないということが挙げられます。

全般的な医療を学んだ後に、内科、神経科、精神科などの中から選んだに過ぎないのです。

臨床心理士やカウンセラー等が、傾聴や面接技術の訓練を積んできたのに対し、精神科医は個々に学んでいるため、同じ精神科医の中でも個々の面接スキルに大きな開きがあります。

私も以前、精神疾患をお持ちの方の通院同行をよくしましたが、これはどうなんだろうと思う精神科医に会うことは意外によくありました。
もちろんプロフェッショナルな方や安心できる優しい方もいましたが。

次に、あがり症に対するアプローチで、医療的視点とは違った選択肢から説明していきます。


【心理カウンセリング】

一つは、臨床心理士及びカウンセラーが挙げられます。
クリニックやカウンセリングオフィス等で、心理療法やカウンセリングをします。

あがり症に対して有効な心理療法として代表的なものは、先ほど挙げた認知行動療法や森田療法になります。

認知行動療法は、決まったフォーマットがあるので、比較的簡単で使いやすいのですが、森田療法は抽象的な部分があるので、知識からさらに踏み込んだ知恵と言いますか、より深い理解がないと到底使いこなせません。

実践できるカウンセラーないし臨床心理士は、非常に少ないと思われます。

そしてこれら以外にも様々な心理療法がありますので、カウンセラーや臨床心理士はそれぞれの得意分野を活かしてカウンセリングすることとなります。

心理療法やカウンセリングのメリットとしては、一般的な精神科医よりもカウンセリングスキルの訓練を積んでいるので、ことその分野においては精神科医よりも専門性があるのが一般的です。

また、精神科医がごく限られた時間の中で面接するのに対し、臨床心理士やカウンセラーは例えば60分など、じっくり話を聞くことができます。

一方、デメリットとしては保険が効かないこと。

安すぎるカウンセリング料でやっている所は、大抵はあまり実践経験がないカウンセラーが経験を積むために安く設定したりしているかと思われますので、正直なところ専門性に疑問が付きます。

逆に、高いと60分で2万円以上かかる所もあり、財布と相談が必要になるでしょう。

他には、医師もそうかもしれませんが、はっきり言ってカウンセラーはピンキリです。

誰でも簡単に学べて、しかも一定期間スクールに通えばカウンセラー資格は取れます。

国家資格でないので、とある団体が研修を一定期間実施して受けた人を「はい、あなたは○○カウンセラーです」と言えば、カウンセラーの資格が取れちゃうんですね。

そこは、その資格を発行している団体の信用性が問われるでしょう。

そして実際の所、心理カウンセラーよりもむしろ臨床心理士の方が専門性が高いです。

彼らは2年間、大学院でじっくり心理学を学んで試験を受けています。論文も書きます。

ただし、心理学は知っているけど実践スキルが乏しい、なんて方もしばしばいるように思います。

最近では2018年に公認心理士という国家資格ができました。

いずれは公認心理士が心理カウンセリングにおいて大きな役割を果たしていくでしょう。


話し方教室】

あがり症に対して他のアプローチとしては話し方教室が挙げられます。
これは正に、あがり症の方々が最も苦手とするようなスピーチ練習をします。

例えば3分スピーチなどで、みんなの前で話をして、場数を踏むというものです。

メリットとしてはやはり、人前で話す経験を積むことが挙げられるでしょう。何度も人前で話す機会を経験することで自信を深めていきます。

また、同じように人前で話すことを悩んでいる仲間と出会えることも大きいように思います。

あがり症で悩んでいる人は結構孤立しがちなので、同じ悩みを持つ仲間と話せることだけでも大きなメリットだと思います。

ただ一方、デメリットとしては料金が高かったり、講師が心理学やカウンセリングなどを学んでいる方が少なく、あがり症の知識が表面的で浅い所です。

話し方のテクニックや呼吸法、活舌、論理的な話し方の習得には一定の効果があるとは思いますが、極度の緊張に悩んでいる方にとっては結局あがってしまってどうしようもないということがしばしばあります。

私の印象としては、症状が軽めの方が自信を付けることでよくなっていくというイメージが強いです。


【ボイストレーニング】

他にはボイストレーニングがあります。
これは、考え方としては話し方教室と似ているでしょう。

人前で話す時にうまく話せるよう、活舌や発声トレーニング、腹式呼吸、姿勢等を訓練します。

これは、うまくいけば自分に自信が持てるようになるかもしれません。

一方デメリットとしては、あがり症に対するアプローチというより、ボイストレーニング~声の訓練をすることが目的なので、対症療法的なアプローチと言えるでしょう。

長年悩んできた方々にとっては、正直ボイストレーニングでは弱いように思います。


【ピア(自助)グループ】

あがり症に対する他のアプローチは、同じ悩みを持つ方々が集まるピアグループがあります。

主なものとして、生活の発見会。
約60年の歴史を持ち、日本各地にあります。

森田療法とも関連が深く、全国の森田療法を実践している精神科医と繋がっていることがメリットと言えるでしょう。

一方、しばしば聞かれるのが会員の高齢化です。行ってみたら、60代以上の方々がほとんどだったという声もしばしば聞かれます。

会員の減少化も課題となっているようです。
若い方々をどう参加してもらうかがポイントになるでしょう。

生活の発見会
http://www.hakkenkai.jp/

あるいは自主的な交流会や勉強会の場もあります。
ネットで検索するとお住まいの近くにあるかどうか調べられるでしょう。

いずれにせよ、同じ悩みを持つ仲間との出会いは大きな意味を持ちます。
相互の共感、独りぼっちではないという安心感、克服者の姿から刺激を受ける等々、メリットは計り知れません。

ピア(自助)グループのデメリットととしては専門性と管理でしょうか。

ここでは主体となる人が重要でしょう。
基本的に支援者ではなく当事者の集まりなため、専門性が弱くなります。

運営されている主体者が、参加者の方にとって居心地の良い場作りができる方ならいいのですが、どうしてもこういった場で起こるのが人間関係での軋轢(あつれき)です。

ここをどううまく回していくかが鍵となるでしょう。

また、しばしばあるのが、治らないんだけど居心地がいいからずっと来続けているというパターンです。

本人がそれで良ければいいかもしれませんが、本来の目的とは違ってしまうかもしれません。


【あがり症克服セミナー】

他には、あがり症克服的なセミナー。
私もやっていますが、これは正にピンキリでしょう。

多いのが、話し方教室系のセミナーです。

だいたいやる内容は決まっていて、緊張しない話し方のテクニックを学ぶというものです。

結構な額を取っている所もあります。受ける前によく吟味する必要性があるでしょう。

 

以上が、あがり症克服のアプローチの概要です。

大事なことは、今置かれている自分の状況等を元に、自分に合った選択肢を選ぶことだと思います。

ある人にうまくいったものが全員にうまくいくとは限らないからです。
そのためにも、自分自身の状態を客観的に知ることが大切となるでしょう。

以下ご参考までに。

あがり症簡易診断