精神科閉鎖病棟見聞録

日本の精神医療の分野は他の先進諸外国に比べて遅れていると言われています。
例えば入院時の平均日数は、OECD諸国はほとんどが50日以内であるのに、日本は約300日で最も長い入院期間となっています。

イタリアでは1978年に「バザーリア法」という革命的な法律が施行され、精神病院が次々に閉鎖に追い込まれました。
隔離された世界から精神病患者を地域社会へと解放したのです。
この一連の流れは、イタリアにおいて映画化され、40万人を超える動員で異例のロング公演となりました。

私は、この映画の日本名で「人生、ここにあり!」を見ましたが、歴史を変革する大きな出来事は変人によってなされる?といった感を強くしました。
以後、約30年に渡り、イタリアには精神科病院がなくなって今に至るのです。

それはさておき、私は以前に社会福祉士や精神保健福祉士という資格を勉強した際に、精神科病院の閉鎖病棟の写真などを良く見せられました。
そこには、なんとも言えないような写真が載っていました。

部屋の中はガランとして何もなく、はじっこに布団が、そして少し離れて、つい立ても何もない穴だけがぽっかり空いてあるトイレがあるのです。
鉄格子を嵌められた入口の扉のガラス越しにから中を見ると、用を足している時に中が丸見えなのです。
プライバシーもへったくれもありません。
まぁ、たしかに自傷行為等犯させないように、見えない空間を作らないという意図があるのだとは思いますが。

そういった写真を何枚も見せられて、私は閉鎖病棟にはおどろおどろしいイメージを持っていました。

そして最近、私の担当の人が入院したり、あるいは別の人は精神科病院で看護補助の仕事で就職したりと、閉鎖病棟に何回か訪問する機会がありました。

ところがです。
ちょっとこれまでの私のイメージとは全く別の世界がありました。
最上階にあって、ガラス張りの大きな窓からは病棟内にポカポカした幸せな雰囲気が流れます。

そして、なんか、じいちゃん婆ちゃんばっかりなのです。

もちろん中には若い人もいますが、ほとんどが高齢者。
しかも病状が安定しているため、精神疾患を持っているのか、認知症なのか、外見からは良く分からないような人がほとんどです。
看護補助で就職した人の仕事も、排せつ介助、入浴介助、食事介助と老人ホームと何ら変わりなし。

病院の副看護部長に聞くと、最近は他の病院も高齢化が進んでいるとのことでした。
おそらく今後もそういった流れが続くのではないかと思いました。

もちろん、保護室と呼ばれる更に奥の部屋はさすがに見ることはできませんでしたが、ちょっと精神科病院の印象が不思議な感じで変わった瞬間でした。

 

偏った思考を緩める

コップの水が半分入っているとします。
ある人は考えるでしょう。
もう半分しかない。

またある人は考えるでしょう。
まだ半分もある。

また、メールを送ってなかなか返事が返ってこなかったとします。
ある人は思います。
何やってんだ、早く返せよ。

またある人は考えます。
何かあったに違いない。

またある人は思います。
まぁ、そのうち返ってくるだろう。

このように、全く同じ出来事があったにもかかわらず、人によって考えや感情が異なってきます。ものの見方は人によって異なるのです。

また、状況によっても変わってきます。
最初の半分の水の例が、砂漠の中だった時、どう考えるか。
次のメールの例が、仕事上、急を争う時だったらどう考えるか。

大切なことはバランスのとれた、かつ多様なものの見方を出来るようになることなのです。人は、ものの見方が極端に偏った時、それが他者をあるいは自分自身を苦しめていくこととなるのです。

メンタルヘルスに課題を抱えた人は、どうしてもものの見方が偏りがちです。
起こった出来事を否定的側面からばかり見てしまうのです。
これを認知の歪みと言います。

例を挙げましょう。

◎べき思考・・・「~ねばならない」「こうあるべき」

◎白黒思考(0か100思考)・・・白か黒かで、ほどほどや中間的なものの見方ができない思考のこと。

◎先読み思考・・・まだ来ぬ未来を、あぁなるかもしれない、こうなるに違いないなどとマイナスに捉えて絶望視する。

◎深読み思考・・・他者のささいな言動から推察し、こう思われたに違いない、私のことを嫌っている、などと深読みし、推測にすぎないものを事実としてマイナスに捉えてしまう思考。

◎関連付け・・・起こった出来事を悪いように自分に関連付ける。

◎選択的抽出・・・出来事の中から、自分にとって良いことも起こっているのには目もくれず、マイナスとなることばかりを拾って失望する。

◎過度の一般化・・・1回か、2回程度の出来事を、いつもそうだとか、決して~ないなどと、あたかも毎回そうであるかのように捉えてしまう思考。

ざっと書きましたが、あがり症(社交不安障害、対人恐怖症)の方、いかがでしょうか?
ひょっとしたら全部当てはまってしまうかもしれませんね。

 

べき思考→人前であがってはならない、緊張してはいけない

白黒思考→ほとんど問題ないのに、緊張して声が少し震えてしまったことで全てが失敗したと捉える。

先読み思考→緊張場面を想像して失敗した自分のイメージ作りに専念する。

深読み思考→人と会話している時、人が目をそらしたのを見て、自分と話すのはつまらないのだと考える。

関連付け→飲み会が白けたのは自分のせいと考える。

選択的抽出→うまくいっている所もあったのにもかかわらず、少しどもったことや、声がうわずった所など、失敗ばかりを意識化する。

過度の一般化→特に問題なく会話できる時もあるのにもかかわらず、私は誰ともうまく話せない、誰もが私と話す時はいつもつまらなそうにしている、と考える。

ここで強く言っておきたいことは、べき思考が強いからダメとか、深読み思考が強くてダメといったものではないということです。

べき思考は、より向上心の強い人にとっては成長するために欠かせないことでしょう。
深読み思考は、人との関わりで相手のことを気付ける人にもなりえます。
先読み思考は、防災等安全管理をするうえで必要不可欠なものです。

つまり、これらの思考が極端に偏った時が、自他共に不健全な状態を作り出してしまうということなのです。
認知行動療法はこれを緩めていく技法です。

極端に偏った思考が緩められた時、それは、がんじがらめになった自分の心をも緩めていくことに繋がるでしょう。