眠るのは諦めなさい

先日、森田療法の勉強会に参加してきました。

森田療法を専門に第一線で活躍されている精神科医の方々に講師役としてお越しいただいて、少人数のゼミ形式で勉強する場です。
参加者もほとんどが精神科医の方々です。

森田療法とは、神経症と呼ばれる、対人恐怖症、パニック障害、強迫性障害等に対して有効な日本発の精神療法です。

今回は、ある講師のA先生の事例発表をもとに議論がなされました。
この事例は、ざっくり言うと、うつで睡眠障害を抱えている方のケースでした。

産後であり、甲状腺に疾患を抱えており、また本人の性格傾向等、うつの原因は様々なものが想定されます。
うつの急性期のため入院し、主治医である今回のA先生に様々な訴えや悩みを吐露します。

体調のこと、生まれたばかりの子供のこと、母親との関係性、パニック発作のこと、病院内での対人関係、そして睡眠障害のこと。

完璧主義者でべき思考が強いため、その望みがかなわない自分に失望します。
そして現実を受け入れられずに自分を責め、益々心身の調子が悪化し更なる失望を招く。
そうした負のスパイラルに陥っているのがこの方の特徴でした。

とにかく入院では徹底した体調管理により、栄養面、休息、睡眠の質の向上を図ります。この方の場合も、睡眠時間が徐々に改善されていったようでした。

しかし、元々の性格傾向のため、改善していても欠点ばかりをあら探ししてしまう。
かくあるべしという睡眠の理想像になっていないため、周りから見たら十分寝れている状況でも、本人は眠れていないとして真実苦しむのです。

やがて友人にカウンセリングを勧められて行った先生が、恐るべし偶然というか、なんと森田療法の第一人者のK先生のクリニックでした。

そうして、K先生の初回面接、いろいろアドバイスをもらった中の一つに次のものがありました。

眠るのは諦めなさい(薬は強くしすぎない方が良い)」

これ、すごい言葉です。

私は質問しました。
「この言葉が、もし患者にストンと入れば苦しみがなくなり得るぐらいの言葉だと思いますが」と。

今回の講師のA先生は答えました。

その通り、と。
これを機に彼女は変わっていった、と。

A先生は受講されている精神科医の方々をぐるっと見て苦笑いしながら言いました。
「けれど、これ言える人います?」と。

全員苦笑いです。
無理ですと。

そもそも、睡眠に悩む人のましてや信頼関係もできていない初回面談で、「眠ることは諦めなさい」と。
医師の所に睡眠の相談に来たのに、あきらめなさい?

言えっこないでしょう。

この言葉を言えるには、次のような条件が必要ではないかと思います。

1.気にすればするほど余計気になって益々症状が悪化していく森田神経質者であると見抜くこと。
2.森田療法の完全なる知識と実践による確信。
3.薬物療法の効果と限界の理解、そして各種心理療法の理解。

つまり、薬物療法と各種心理療法の功罪を知り抜いた上で、森田療法の実践家としてやっているK先生でなくしてはこんな言葉は言えないのです。

私も言えるようになりたいものです。
「あがることは諦めなさい」

ちと無理かな?

 

希望こそ

私は日頃いろいろな方のご相談に乗っています。
その中でも多いのが、うつの方です。

うつ単独の方もいますが、他障害を併発している方も多いです。
他障害はいろいろです。

パニック障害、強迫性障害、統合失調症、人格障害、発達障害、社交不安障害、等々。
これは、ある種当然と言えるのかもしれません。

そもそも、何らかの障害をお持ちの方は、それに伴いメンタル面にも影響が出ることでしょう。
心の風邪とも言えるうつにも、そりゃあなってしまいますよね。

社交不安障害の中の35~80%の人に、大うつ病が併発しているという報告もあります。

そういったうつをお持ちの方を接していく中で、どうも感じるのが、先行きの見通しが見えないことで苦しんでいる方が多いように思えるのです。

そもそも未来というのは不確定なものです。
そうなるかもしれないが、そうならないかもしれない。
良くならないのかもしれないが、良くなるのかもしれない。

誰にも完全に予測することはできません。
それが、うつの方にとっては確定した未来になってしまうのです。

今置かれている望ましくない状態に不安や焦燥感を抱き、それが永遠に続くように思えてしまう。
未来が真っ黒に塗りつぶされているかのように思えるような人もいらっしゃいます。

私がお会いしてきた中でなかなかうまくいかなかったケースは、まさにこの先行きに見通しを持ってもらうことができなかった、あるいは今の現状を受け入れられなかった場合が多いように思えます。

先行きに見通しを持つこと。
それは何か?

「希望」

私は希望こそが、その方のメンタル面に大きな影響を与えるのではないかと思うのです。

ひょっとしたら、何かが変わるかもしれない。
もしかしたら治るかも。
なんとかなるかも。

現実は何一つ変わっていない。
しかし、希望を持つことで心の現実は変わるのです。
そして、心の現実が変わることで現実までもが変わってくるのです。

私は勇気づけカウンセラーとして、意識的、無意識的にかかわらず、希望を持ってもらえるような言葉を相手に投げかけます。

自己否定をしまくる人に言います。
「うつの重い方はそもそも他人に相談できずに潰れちゃう人が多いんです。助けを求める力がないのです。なので今回あなたが来られたことはそれだけで自分を救っているのです。」

シャリ~ンと音がするように勇気づけの粉を振りかけます。

「いざという時に自分を救う能力があります。」
シャリ~ン。

「あなたは今とり得るベストな選択をしました。」
シャリ~ン。

「普通はこの状態だと諦めます。どうしてあなたはここまで耐えられるのですか?」
シャリリ~ン。

これらの言葉が入っていくと明らかに表情が変わってきます。
先行きがなんとなく明るくなるのです。
顔が安らぎます。

中には確かにいます。
勇気づけの粉を振り払う人が。

シャリ~ンと粉を振りかけると、まるで花粉か何かのように払いのけるのです。
シャリ~ンにパパッパ。

も一度シャリ~ン。
ササッさ。

う~ん、手強い。

こういった方の場合は、まずは現状を受け止めてもらう必要があるでしょう。
現状を過剰に捉えている可能性が高いからです。

こうった方を含め、いかなる状況の人にも勇気づけの粉を振りかけることができるようになりたいものです。