今日は、認知行動療法と行動療法という心理療法について解説していきます。
では、まず認知行動療法から。

これは、ものの見方や行動を変えることで自分の精神的負担を軽減させていこうとする療法であり、その効果が科学的に実証されています。

そして、その有効性により2010年から診療報酬化されました。

つまり、医師が精神医療現場で認知行動療法を使うと医療費をもらえるようになったのです。

ただ、実際問題、どれだけの精神科医が実施しているかと言うと非常に少ないのが現実であり、またマニュアル的なやり方でもあるため、対人スキルに課題があるようにも思えます。

では、具体的にどのようにセッションを進めていくのでしょうか?

この認知行動療法の中で自動思考というキーワードがあります。
これは、ある出来事が起こった時に自動的に考えが浮かんでくる、その思考を指します。

例えば、問題の渦中にある人の場合、

「俺はダメな人間だ」
「私のことを軽蔑しているに違いない」
「どうせ失敗するに違いない」

といったようなことが挙げられるでしょうか。

問題の渦中にあると人は根拠のない偏った見方をすることが多いです。
本当はそうではないのかもしれないのにです。

この偏りが特に顕著な方は自殺を考えている人と言っていいかもしれません。
視野狭窄と呼ばれる、まるでマイナス思考と書かれた細長い筒で世の中を見ているかのようです。

では、あがり症の方の場合はどういった自動思考になるのでしょうか?

例えば、次のようなものでしょうか。

「緊張して声が震えてしまったらどうしよう」
「あがっている自分をみんなに見られた。もう終わりだ」
「変な人と軽蔑されたに違いない」

こういった自動思考は自分を苦しめます。
そこで認知行動療法では、それを緩める質問をしていきます。

それは例えば次のような質問になります。

「もし、他の人が同じようなことを考えているとしたらなんて声をかけてあげますか?」

「あなたの大切な人はどんな言葉をかけてくれると思いますか?」

「元気な頃の自分だったらどう考えると思いますか?」

こういった質問をしていくことで、ガチガチに固まった自動思考を、あれ?違う見方もあるのかな、とか、自分がそう思うほどではないのかな、といったように緩めていくことができるのです。

これを手を変え品を変え、繰り返しやっていくことで、これまで全くなかった思考回路を自分の中に習慣付け、バランスのとれた思考を出来るようにしていくのです。

それは、力が入り、いきり立った肩が徐々に緩んでいく過程に似ています。

これは決してプラス思考の押し付けではありません。
いろんな見方が取れるようにして自分の心の負担を軽減していく療法なのです。

では、次に行動療法について解説していきます。
行動療法とはその言葉の通り、人間の行動について焦点を当てた精神療法です。

パブロフの犬などに見られるような条件反射など、学習理論をベースにしたやや科学的色彩が強いとも言える療法です。

その中に系統的脱感作法というものがあります。
系統的脱感作法とは、エクスポージャー(恐れていることへの曝露)とリラックス状態をぶつけることで不安や恐怖を打ち消す技法のことです。

具体的な方法としては、

  1. 自律訓練法などでリラックス状態を獲得する。(※自律訓練法とはリラックス法の一つであり、「あなたは腕が重くな~る、重くな~る・・・」といったようなものです。結局リラックスするのが目的ですので、呼吸法等どういったやり方でもいいのではないかと思います。ちなみに自律訓練法はユーチューブなどでも検索できます)
  2. 不安階層表を作成する。
    (※不安階層表とは、その人が恐れている場面を挙げられるだけ挙げてそれを選り分け、不安レベルを数値化、階層化したものです)

例えば社交不安障害の方だと、

・同僚におはようと自分から言う(レベル1)
・天気の話を続けてする(レベル2)
・知らない人に道を尋ねる(レベル3)
・授業中に質問をする(レベル7)
・人前でスピーチする(レベル10)

などといったところでしょうか。

3.不安階層表に基づいて、不安の低い場面からイメージさせるとともにリラックス状態を作り、不安が解消されたら次の段階へ進む。

つまり本来は緊張するべき所にリラックス状態をぶつけて、緊張を消去させようというものです。

ここで大事なところは一番不安の低い所から始めるという所です。

自信を失い続けている社交不安障害(あがり症)の方には、できた!という自信なり自己肯定感を持ってもらうということが非常に大きな意味を持つからです。

こうして徐々に不安場面を減らしていく、あるいは軽減させていくというものです。

ちなみに私のあがり症克服過程は、全く真逆なものでした。
フラッディングと呼ばれる恐怖場面への直面化をひたすら繰り返すものでした。

カッコよく言うとそうなりますが、ただ単に、嫌がる自分の首根っこを捕まえてその都度恐怖場面に引きずり出してただけです。
いやはや、なかなかしんどかったですね。

私の場合は、孤独な戦いでした。時間もかかりました。

系統的脱感作法は一つのツールです。

今日お伝えした、認知行動療法や行動療法以外にも様々なやり方なり技法があります。

私が思うのは、そういったツールなり心理技法なりの選択肢を支援する側が数多く持つことにより、クライエントに合わせたやり方を見つけ、それがすなわち社交不安障害(あがり症)を克服する可能性につながるのではないかということです。

そして、私のような孤独な闘いではなく、伴走者や支援者と共に回復を目指していくことが克服を目指す人にとって大きな支えとなり、より回復への近道となるのではないかと思います。

(認知行動療法)