あがり症克服のコツ

あがり症(対人恐怖症、社交不安障害)の方は、その症状の渦中にいるとき、全ての意識が症状に向けられます。

そのため、他者への気づかい、配慮といったものは、ほとんど考慮外になります。
性格が悪いといった話ではなく、自分と症状への囚われの世界に生きているため、全く外の世界のことが考えられなくなってしまうのです。

これを消極的自己中と言います。
他者に害を加えることはないが、自分のことばかりしか考えられなくなるのです。
例えて言うなら自分のことへの意識が90%、他者への意識が10%といった所でしょうか。

そうして自分の内面や症状に注目することでかえって症状が明確かつ大きなものになり、益々症状に意識が向かうという悪循環にはまっていきます。

なので、この意識の向き方の割合を変えていく必要があります。
すなわち意識を外の世界に向けていくことです。

「花がきれいだ」
「掃除を丁寧に」
「ヨガをしたい」
「旅行に行こう」
「好きな料理を作ろう」

毎日の生活を膨らませていくのです。
一見、あがり症の克服とは関係ないように思えるかもしれません。
しかし、意識を症状から違うものに向けること、すなわち自分への囚われから外界へと意識の向け方の割合を変えていくことは、症状の軽減につながるのです。

そして、その中で最も意味あることは他者のために何かをすることです。

困ってる人に一声かけてあげる。
同僚に何か手伝うことはないかと聞いてみる。
仕事で人の役に立つ。
面倒な役回りを自ら進んでやってみる。

こういったことをしていくことで、意識の置き所が変わり、自分への囚われから解放されていくのです。

あがり症の克服のコツは、症状に対処しないことです。
症状に対し、あれこれ考えたり行動たりしてきた歴史を変えるのです。

それはあがり症を治さずしてあがり症を忘れるようになっていく道なのです。

 

森田療法事例発表

昨日、森田療法の勉強会で事例発表をしてきました。

森田療法とは、数少ない日本発の心理療法の一つで、あがり症やパニック障害等の神経症と呼ばれる症状に有効な心理療法です。

それでこの回は定期的に開催されているもので、毎回森田療法に造詣の深い精神科医の先生が講師役となり、最近は毎回、各参加者の事例が発表されます。
その事例を元に、参加者の方々が意見や質問等をしてくことで、理解を深めていくものです。

そして今回は私の番となったわけです。

参加者のほとんどの方が精神科医の方々で、これまでの事例をお聞きしていくと、薬の処方や医療面のこと、そして森田療法的アプローチが話されていきます。

そして私がカウンセリングをしたある方の経過を話したのですが、医師ではないのですから医療や薬のことはあまり語れません。

かといって森田療法的アプローチだけを語ったかというとそうでもありません。

もちろん、森田療法の勉強会ですから森田療法のことを中心に話します。
しかし私が行ったカウンセリング技法、例えばミラクルクエスチョンや例外の質問、そしてリソース探しなどをしたこと、さらにはクライエントの方がアドラー心理学の勇気づけ勉強会に参加されたこと、あがり症克服セミナーに参加されたことなど、もう何でもありの事例を伝えたのです。

あまりに雑多な感じで、戸惑われた方もいたかもしれません。
しかし、私はこういった場に臨むにあたってはなるべく取り繕わずに事実を伝えるようにしています。

なので私があがり症の当事者であったことや、今は逆にあがり症の方向けにカウンセリングやセミナーをしていること等々を伝えたうえで話しました。

あがり症であるということをなかなか言えない人も多いでしょう。
しかし、自分があがり症であると言うことで、ストンと落ち着く部分もあります。

また、事実をありのままに伝えることは説得力を持ちます。
事実をそれ以上でもそれ以下でもなくありのままに伝えることは、言葉に重みが増します。

そうして無難に終えたのですが、かつての私はこういった場で自分がこんなことを発表するということは想像もつかなかったことでしょう。

まさか人前で、まさか自分の事例を、まさか精神科医などの専門家の方々の前で。
重度のあがり症だった自分が。

私はまるで他人事のように、人間の持つ可能性を感じざるを得ませんでした。
いかなる人でも、まるでES細胞のように進化し、より良くなる可能性があるのだと。