不安を強くするもの
昨日受けたセミナーで社交不安障害に関する最先端の情報が得られましたので一部要点だけご紹介します。
精神科通院されている方などで興味のある方がいるかもと思い書きました。
ただ、ちょっと専門的なので飛ばして読んでいただいても構いません。
・社交不安障害がひどくなるとパニック障害になりやすい(5割ぐらいがパニックになる)。
・薬物療法で最も効果があるのはモノアミン阻害薬(ただし日本にはほとんどない)。他に良いのはリボトリール。
・SSRIの中で比較的使われるのはデプロメールだが、いろいろあるSSRIの社交不安障害に対する効果としてはどの薬でもほぼ差がない。
・個人認知行動療法、集団認知行動療法、服薬と認知行動療法の中での有効性は、服薬と認知行動療法が最も効果がある。次いで個人、集団の順。ただし、どれもが一定以上の効果がある。
・行動療法のエクスポージャーとSST(生活技能訓練)は一定の効果がある。
・精神分析(フロイトなどの深層心理分析)は効果が低い。
・認知行動療法によりドーパミン受容体の数は比例して増える(効果があるということ)。
さて、こんな小難しいことは置いておいて本題です。
そのセミナーは社交不安障害に対しての集団認知行動療法を内容とするものでしたが、非常に参考になりました。私もいずれは集団認知行動療法をやっていく予定です。
その中で、不安についての考察がありました。
これは私がこれまで森田療法の説明を通して何度も書いてきたことですが、大事なことは何度も何度も手を変え品を変え書いていく必要がありますので、改めて以下に確認します。
・社交不安障害の人の不安が強すぎるのは、避けたいことが起こる見込みを非常に高く見積もり、そして避けたいことが起こった時の恐怖を考えすぎるからであるということ。
→これは森田療法における精神交互作用、つまりあがらないようにと考えれば考えるほど余計緊張が強くなるということと同じです。
・社交不安障害の方の不安が続きすぎるのは予防しすぎるから。
→これは森田療法で言うはからいごとです。
はからいごとが多いと成功体験を決して積むことができないんですね。
では、予防あるいは安全行動にはどんなものがあるのか?
もう、い~っぱいありますよね。
次のようなものです。
・緊張する場面を避ける、行かない
・自分の顔を手で隠す
・アイ・コンタクトを避ける
・自分が他者にどう見られているか想像する
・汗をかくのを防いだり隠したりする
・手の震えを抑え込む
・心の中で言うことをリハーサルする
・スピーチや話す内容を丸暗記する
・間が空くことを避ける
・タートルネックの服を着る
・過剰に練習する
・教室の一番後ろの席に座る、あるいは一番前の席に座る
・緊張する場面の直前にアルコールや薬を飲む
・濃い化粧をする
とりあえず挙げましたがどうでしょう?
どれぐらい当てはまりましたかね?
これらは麻薬なんですよね。
一時的には心が楽になったりする一方、依存的になります。
これらなしでは生きていけなくなるんですね。
そして長期的には悪化させます。
これらなしで成功体験を積んでいくことが、あがり症克服のキーポイントとなります。
その挑戦を支えるのが、本人のどうありたいかという価値観であり、そして自分のことを理解してくれている人や大切な人とのつながりであり、そして支援する側の勇気づけなのです。
吃音があっても・・・
認知行動療法の第一人者である大野裕先生のセミナーに参加してきました。
いやー、相変わらず分かりやすかったです。
たった2時間のセミナーでしたが、かなり収穫がありました。
感じたのは、第一人者であるのにもかかわらず穏やかで慎ましい雰囲気なので、こりゃあ大野先生と話すことそのものがカウンセリング的だなぁ、ということです。
もちろん、話す内容も分かりやすいです。
私の目指すカウンセラー像のうちの一人です。
で、このセミナーの中でいろいろな事例のお話をされましたが、その中に一つ印象的な例がありました。吃音の例です。
私の担当の方にも吃音の方がいて、その方は今度国立の大きな機関の新しい治療法の治験、いわゆる実験台になってくるそうです。
そこまでせざるを得ないほど吃音というものは本人を苦しめるのでしょう。
それで大野先生の話ですが、大野先生の元に国語の教師が相談に来たそうです。
その方は自分の失敗に悩んでいるというのです。
それは、絵本の読み聞かせの時です。
生徒が読んでくれるだろうと思って「誰か読みたい人手を挙げて」と言ったら誰も手を挙げなかったようです。
それで仕方なく、その先生が読んでいった所、最も大事な所、笑いを取る大事な所で緊張してしまったのでしょう、どもって止まってしまったというのです。
教室はざわつきます。
よりによって人を教える立場である先生にとって、生徒の前でのこの失敗がいかに大きかったのかは想像に余りあります。大野先生もこの話に胸を痛めたようです。
しかし、待てよと。
そもそも吃音の方が何故教師という職を選んだのか?
ましてや、当然に読む機会が多いであろう、よりによって国語の教師を?
大野先生は率直にそのことを聞いたようです。
するとその国語の先生は答えました。
自分が吃音なだけに言葉の大切さや美しさを伝える国語の教師になりたかったのだと。
そうであるならばと大野先生は続けます。
どもったからといってことばの大切さ美しさが伝わらないわけではないのではないか?と。
その先生はハッとします。
どもった時に失敗したと捉えるのではなく、そのまま自分の価値観に沿ってまた読み続けることもできたのではないか?と。
あがり症の方、社交不安障害の方は緊張を生じさせる場面を想起すると極度に揺れます。こういった時に恐怖場面に突入するためにはエネルギーが必要となります。
それは、その人自身が人生に何を望むかという価値観こそが、恐怖に突入するエネルギーとなるのです。
価値観が勇気を支えるのです。