あがり症(対人恐怖症、社会不安障害)の方は、人の視線や、人にどう思われるかということに意識が向きます。人に否定されることを恐れるからです。
人にどう思われているか、どう見られているかは、相手に確かめることができれば分かるのでしょうが、そんなことなかなかできません。
だから、観察して確かめます。
相手の様子、目線、表情、声のトーン、それこそ一挙手一動足に至るまで、まるでサーチライトを照らすかのように、不安と恐怖を原動力にして徹底して探し出します。
原動力がそこである以上、悲しいかな、探し出すターゲットも不安と恐怖の証拠のみになります。
つまり、否定的要素だけです。
「こちらを変な目で見ている。嫌われている?」
「やばい、あがっているのがバレちゃった?」
「顔が真っ赤なのが気付かれてしまったのでは?」
肯定的要素は決して見ません。
100あるうちの99が良いことであっても、もちろんそこはスルー。
たった一つのマイナス1に焦点を当てます。
そうして、自分の頭の中の世界で不安と恐怖が膨らんで、次第にパンパンになっていきます。
現実からかけ離れた妄想をあたかも現実のように感じるようになります。
そしてその物語の中に生きます。
人にどう見られているかどう思われたかは、他者の評価を気にしている状態です。いわば、あがり症の方は他者評価依存症にかかっているのです。
しかも、その評価軸は自分の言動の中身ではなく、自分の外見が緊張しているように見えるか見えないか。緊張して震えているのがバレたかバレてないか。
だから、極端なことを言えば、中身のない話だろうがなんだろうが、声や手が震えたりせず、あがっているのがバレなければそれでいいのです。
そこに自分はありません。
あがり症の方は原点に立ち返る必要があります。
もともとはと言えば、あるべき自分像が高く、生きる欲望が強いからこそあがり症になったのです。
本来持つ、より良くありたいという思いが、いびつな形で発露されたのがあがり症の症状です。
健全な思いに立ち返る必要があるでしょう。
健全なものの見方をする必要があるでしょう。
私は、あがり症の悩みを切々と訴えてくる方にしばしば聞くことがあります。
「いつも震えるというのは、話しているときの最初から最後までですか?人と話すときは100%そうなるんですか?」
「あがりが少しでも軽かったり、ましだったりした時はありますか?」
問題の渦中にあるとどうしても極端な思考になりがちで、常に問題が起こっているかのように考えがちです。しかし、本当はそういったことは稀なんですね。
よくよく聞いてみると、あれ、そう言えばあの時はそうでもなかったよなといったことは出てくるものです。頑としてそんなことはないと言う方もいますが、聞き方を工夫すると大概出てきます。
あがり症の方は、自分がましだったときのことなどは、秒で忘れます。
そして、上手くいかなかったシーンをクローズアップします。
そして、そのシーンを何度も何度も、何度も何度も再生させることで、そのイメージが強烈に自分の中に刷り込まれます。
記憶の上書き保存です。
それは本人にとっての主観的な真実です。
まるでVR(仮想現実)の世界に生きているかのようです。
ところが、質問を重ねていくことで、そう言えばあの時は比較的軽かったなどといったコメントが出てきたら、その時の様子を詳しく尋ね、その時はどうして軽かったんでしょうねぇ?などと聞いていきます。
ダメなとこ探しのプロであるあがり症の方にとっては、考えたこともないようなことです。
しかし、あがりながらも比較的軽かった時のことや、たまたま上手くいった時のことを複数聞いていくことで、あれおかしいな?いや、そんなことないなどど否定しようとします。
けれど、こうやって例外を探していくことで、意外に大丈夫な時もあったんだなときづくことがあります。まぁ、そうは言ってもやはりダメなとこ探しをまるで傷口に塩を塗るかのようにやっちゃいますが。
結局のところ、人が見ている世界は虚構に過ぎないのです。
それは、VR(仮想現実)の世界。
あなたが見たあなたの世界は、あなたのVRゴーグルというフィルターを通して見た、あなただけの仮想現実。
私はあがり症
あがって失敗した自分は他者に否定される
だから私はあがってはならない
そんな、歪んだVRレンズで見た世界。
それは、蜃気楼の中にそびえ立つ砂のお城。
ダメな色に塗りたくられた。
だから、シンプルに言えばVRゴーグルを掛け替えるだけ。
ダメなとこ探しのVRゴーグルを一旦脇に置いて、できたこと探しのゴーグルを掛ける。
もちろん、あなたの生きづらくて歪んだゴーグルは慣れてるのでしっくりくるでしょうが、新しいメガネを心地悪くても続けていく。
歪んだ真実を、ちょっとだけ歪んだ真実に変えていく。
その積み重ねの先に、真実は何一つ変わってなくてもあなたにとっての仮想現実は変わっていくに違いありません。
参考記事
▷森田療法であがり症の緊張と震えを改善する三つのポイント
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