サバイバルクエスチョン

普段、様々な方が私の元に来られます。
悩みや困っていることも、そして彼らを取り巻く人間関係も多様です。

そんな中でも、面接時にそこにある見えない空気までもがどっしりと重く感じてしまうようなケースもあります。
そんな雰囲気での面接は、そこだけ時間の流れが滞ってしまったかのようにゆっくりと進みます。

最近、私が担当する方には、たまたまなのかこういったうつ病の方のケースが増えています。
こちらの質問に対し返事が何秒か遅れて返ってくる。

時に何秒では済まず、何十秒、はたまた1分は超えているような時もあります。クライエントの沈黙は大切なことなので、こちらもゆっくり待ちます。

こういった場合、可能性、前向き、挑戦、といったネタをこちらから提案した場合、大概、クライエントからはイエスバット(YES、BUT)で返ってきます。
(YES)理屈は分かるけど(BUT)行動はできません、といったところです。

そして再び、奈落の底に落ち込むような、あの会話のやり取りに戻っていくのです。
こういった重いケースの場合はこちらの言葉はなかなか相手に入りづらいです。

しばしの重いやり取りの後、おもむろに出します。
サバイバルクエスチョンを。

これは、大変な状況にある、あるいは大変な状況をくぐり抜けてこられた方に対して問うものです。

「どうして、あなたはこれだけの状況の中、やって来られたのでしょう?」
「あなたの何が、ここまでやってくることができたことの支えとなったのでしょう?」

重いケースであればある程、そこを生き延びてきたことに大きな価値を有します。
それがクライエントの強みになるのです。彼らは次のように答えるかもしれません。

「家族がいたから・・・」
「逃げたくなかった・・・」
「食べていかなきゃならないから・・・」

押しつぶされそうな状況にあり、自分のことなどとても構うこともできずに自己肯定感が枯渇してしまっている彼らは、自分にプラスの要素や強みがあることなど到底信じられません。

しかし、このサバイバルクエスチョンは相手の強みを如実にあぶり出す質問法です。
先述のコメントに私は次のように答えるかもしれません。

「家族があなたの支えだったのですね」
「それはあなたのプライドだったのですね」
「人に頼らず自立していく気持ちが強いんですね」

この言葉が相手のツボに入るときっと表情が変わることでしょう。

この質問は、回避性人格障害のように全てを回避してしまったような方には有効かどうかは分かりませんが、普通のあがり症の方にはきっと効くでしょう。なぜなら、あがり症の方の内面には強い自尊心と向上心が隠れているからです。

サバイバルクエスチョンはきっとそこにサーチライトを当てることでしょう。

「どうしてそれほどまでにつらい思いをしながら、ここまでやってこれたんですか?」
「あなたがそれほどの状況の中、人生のステージを下りなかったのはあなたの何が支えとなったのですか?」

 

ブリーフセラピーの中心哲学

今日は最近思う所があるので、あがり症に限らず全てに通じる鉄則をお話します。

私は普段、あがり症の方だけでなく様々な精神疾患や障害をお持ちの方に会っています。

その中でどうも感じるのは、あぁ、この方はこの思考パターンが自分を苦しめているなぁ、悪循環の繰り返しをしているなぁ、などといったように、こちらから見るとうまくいっていないのが分かるのにもかかわらず、当の本人は気付いていない、あるいは気づいていてもその悪循環から抜け出せずにいるケースが多いということです。

心理療法においては、こちらが気付いてアドバイスしたり提案したりしても、当の本人にそれが入らないとあまりうまくいきません。
特に、理屈は分かるけど・・・、分かっちゃいるけど・・・といったようなケースではそうです。

こういったようにイエスバット(はい、けど・・・)という文脈や、やめたいけどやめられないといった両価性を持つような場合、こちらが理屈で押しつけると却って相手は反発するため逆効果となります。

ですから、私も言いたい気持ちを抑えて、ふんふんそうなんですねなどと対応していますが、時になかなかもどかしいこともあります。

そんな言いたい気持ちを今日は抑えずに伝えたいと思います。

ブリーフセラピーという心理療法があります。
そのブリーフセラピーの中心哲学として三つのルールがあります。
以下になります。

1.もしうまくいっているのなら変えようとするな
2.もし一度やってうまくいったのなら、またそれをせよ
3.もしうまくいっていないのであれば、(何でもいいから)違うことをせよ

どうでしょう?
いたってシンプルで拍子抜けしたのではないでしょうか?

しかし、悩みの種はこれができていないからこそなのであり、私が相談に乗ってお伝えするのはこの三つのルールに即したものが多いでしょう。

いかにこの当たり前とも思えるようなことができていないことが多いことか。

せっかくうまくいっていることを変えてしまう。
うまくいったことをまたやってみない。
うまくいっていないのに同じことの悪循環をひたすら繰り返している。

これじゃあ、負の中心哲学ですね。

ブリーフセラピーでは、クライエントの中に解決がある、既に解決は日常の中に起こっていると考えます。
我々はそれを掘り起こして本人の前に提示するサポーターなのです。

繰り返します。

1.もしうまくいっているのなら変えようとするな
2.もし一度やってうまくいったのなら、またそれをせよ
3.もしうまくいっていないのであれば、(何でもいいから)違うことをせよ

この観点からご自身を振り返ってみてはいかがでしょうか?

明日は、これを導き出すノウハウの一つをお話しします。