ヨコのつながりの強さ
3、4年ほど前のことでしょうか、私が話し方教室に通っていた頃、熱意のある若い男性がいました。
その子とは、たまたま家が近かったこともあり、食事しに行ったこともありました。
スピーチコンテストというイベントの際に英語でスピーチしたりして、前向きさがあふれかえらんばかりの人でした。
一方、そもそも話し方教室に通い始めた動機は人前で話すことが苦手だったから、という面は当然ありました。
そして、ある時、その子が言いました。
「先日、何百人という聴衆がいる講演会で思い切って講師に質問しました。ブルブル震えましたが何とか質問しました。」
これ、あがり症の方なら分かりますよね?
到底、あり得ないことですよね。
そんな発想など持ちようもない。
恐ろしくて想像もつかない。
私は、感動しました。
何に?
それは、質問したことそのものよりも、ブルブル震えるぐらいのプレッシャーがありながらも質問した彼の勇気ある行動に対してです。
感動は次なる行動を呼びます。
人を触発します。
私はその後まもなく50人ぐらいの参加者のセミナーに出ました。
講師の先生が言いました。
質問はありませんか?と。
その時、彼のことを思い出しました。
迷いました。
そんな、無理してやらなくても。
いや、男だろ。
頭の中で天使と悪魔がやり合っていました。
私は逡巡しながらも、ついに手を挙げたのでした。
おそらく彼の行動を聞かなかったら、何を好き好んで、やりたくないことをやることはなかったと思います。
よりによって、最も怖れていることを。
しかし、彼の行動が、恐怖の裏にある私の欲望を触発したのです。
本当は、そういった場で質問できる自分でありたいのです。
ダメな自分を卑下するのではなく、誇り高き自分でありたかったのです。
これが、同じ悩みを持つ仲間とのつながりの強さなのです。
横のつながりは人を勇気づけるのです。
カウンセラーの私が言うのもなんですが、同じ悩みを持つ仲間からの一言は、時としてカウンセラーの言葉をはるかに凌ぐ一言になることがあります。
ですから、いずれ私は、あがり症(社交不安障害、対人恐怖症)の方向けに、横のつながりを持てる場を作る予定です。
就労準備性ピラミッド
今日から職場で集団認知行動療法を始めました。
月2回でやっていく予定です。
対外的にこのプログラム名をどうするか上司と相談してきました。
私の職場は医療機関ではありません。
なので集団認知行動療法とか別名ではCBGTと言うのですが、そういった堅い名前で標榜するのもどうなんだろうということで、結局付けた名前が「自尊感情を育むワークショップ」。
長くて覚えづらい名前なのですが、ここにはこのプログラムを始めるに到った思いがこもっています。
障害者、特に精神障害者の就労にとって正に自尊感情が非常に大事だという認識を持っているからです。
少し説明させていただきます。
私はよく、就労準備性ピラミッドという図を使って障害者の方に就労するには何が大事かという話をします。
図をブログにうまく貼り付けできないので、文章でピラミッドの内容を示しますが、以下のようになります。
最上段・・・職業適性(遂行能力、スピード、正確性)
2段目・・・基本的労働習慣(ビジネスマナー、報・連・相、規則の遵守)
3段目・・・対人関係スキル(コミュニケーション、協調性)
4段目・・・日常生活管理(規則正しい生活、身だしなみ、金銭管理)
最下段・・・健康管理(服薬、睡眠、食事、通院)
これを、よくイチローに例えて説明します。
イチローで言うなら、最上段の職業適性はピカイチです。
けど、いかに能力が高くても、指示に従えなかったらダメだよねぇ、と。
寝坊して試合に出られなかったらだめだよねぇ、と。
昨日寝てなくてフラフラだったらだめだよねぇ、と。
つまり、どれだけの能力があろうとも、その土台の健康管理や生活管理がしっかりできていないとピラミッドはグラグラして崩れてしまうんです、と。
私の元に来られる障害者の就労相談では、必ずこの観点から見ます。
3段目以下、特に4段目5段目が安定していない人には、いきなり就活というよりもここを安定させる選択肢を提案するのです。
逆に言えば、ここが安定してれば就労の準備性は整っていると判断します。
つまり、このピラミッドが安定している人は安定した就労継続が図られるだろうと考えるのです。
というか考えてきました。
ですが、どうもこれだけでは足りないような気持ちをずっと持っていました。
有名な図なので盲信してきましたが、何かが欠けているのです。
そうです。
それが、自尊感情や人間関係なのです。
先ほどのピラミッドが安定している人でも、自尊感情が乏しく自分を否定しがちな人はストレスを累積しやすく崩れてしまうのです。
また、家族や同僚等、人間関係が上手くいかない時はいともたやすく崩れます。
結果として仕事を辞めざるを得ない、そんなケースがあまりにも多くあるのです。
なので私はこのピラミッドの図に、以下の一段を付け加えました。
6段目・・・心の安定、価値観(自尊感情、良好な人間関係、働きたい!)
そうしてこの図を印刷したものを集団認知行動療法に参加している皆さんに配り、説明しました。
今回の「自尊感情を育むワークショップ」は、まさにこの6段目を安定させるためにやっていくのです、と。
自尊感情は、なにも就労の観点だけのものではありません。
その人がより良く生きていくためには必要不可欠なものです。
自尊感情を育んでいくことで、心に余裕ができ、ストレスに対してのレジリエンス(抵抗力、回復力)を身につけていくことができるのです。