(近日予定講座!)
「あがり症克服日めくりカレンダー」出版記念セミナー【新宿7/15】


私はよくあがり症の方に聞かれます。

「緊張をなくすにはどうすればいいんですか?」

私はしばしば答えます。

「緊張をなくすことはできるんでしょうか?」

森田療法の祖、森田正馬は言っています。

「なお欲望と恐怖との調和とは、たとえばわれわれが毛虫を恐れるのは、本能的感情である。これが人に飛びついて、害を加えることがないということを知るのは知識である。これを駆除するのは、園芸の必要に迫られるがためである。恐れるままに、園芸の欲望に駆られている間に、いつしか慣れて、毛虫を手でつまんでも平気になるようなものである。これに反してまず毛虫を嫌がらないように、その本来的感情を否定排除してかかろうとすれば、その不可能の努力とともに、いたずらに恐怖感情を徴発増悪して、ついには園芸の恐怖に対して手を出すこともできないようになるのである」<現代に生きる森田正馬の言葉:白楊社>

ちょっと分かりづらいかもしれませんが、要は、毛虫は嫌なもんだけど、しょうがないから園芸作業してると次第に慣れてくるものであって、そもそも毛虫を嫌なんて思っちゃならないなんてできっこないし、毛虫が大丈夫になってから園芸作業しようなんて考えたら永遠に園芸作業なんてしないよねといった意味でしょうか。

まぁ、至極ごもっともですよね。
毛虫が嫌でも作業するしかないですからね。

ところで、あがり症の方にお聞きします。
ここに書かれている「毛虫」を「不安」に、「園芸」を「社会場面」に置き換えてみるといかがでしょうか?

あがり症の皆さん、不安を嫌なんて思っちゃいけないとか、不安に対して平気になろうとしてませんか?

そして、不安を取り除いてから社会場面に出ようと思ってませんか?
緊張や震えがなくなったら社会場面で挑戦しようと思ってませんか?

その思いは果たして実現するのでしょうか?

そもそも人間である以上、湧き上がる緊張と不安をなくすことは不可能です。
なぜならば、緊張や不安は危険に備えるための人間の本能に根ざしたものなのですから。

「不安がなくなったら○○しよう」
「緊張と震えがコントロールできるようになったら○○しよう」
「あがり症が治ったら○○しよう」
「あがり症が治らない限りは○○すまい」

これは不可能を可能にしようという言葉のゲームです。
あがり症の方はこの言葉のゲームにこだわります。

「いや、全く緊張がなくなってからなんて思ってませんよ」
「今より少しでも良くなったら人前で話そうと思ってます」

そう言います。

そうして、いつか良くなるかもしれないという可能性にすがって、いつしか5年10年と過ぎていく、いわば永遠の可能性の中に生きる人になります。

なぜ、可能性の中に生きるのか?
なぜ、良くなるかもと願って前に進まないのか?

この時出るセリフ。

「あがり症があるから」
「あがり症さえなかったら」

それは言わば自分が自分に付いた人生の嘘です。

前に進んで傷つかないための言い訳としての。
前に進むことで失敗に直面しないための。

人は自分自身をも欺くのです。
心の奥底で何か薄々とは感じながらも。

そうして、生き辛いんだけど、前に進んで怪我するよりマシな、なじんだいつもの生き辛さベッドに安息するのです。

そもそもです。不安はそれ一つではこの世に存在し得ません。

不安の裏にはより良くありたいという欲望があるのです。
欲望があるからこうなるかもという不安が生じるのです。

不安と欲望は一対なのです。
欲望なき不安はなく、不安なき欲望はないのです。

光と影、陰と陽、表と裏、そう、全ては一対。

あなたが望む不安なき状態とは、もしかしたら仙人さんのように無の境地なのかもれません。

そしてあなたが望んでいたあり方は、もしかしたら自分の影を消そうと白いペンキで塗り続けていたのかもしれません。

つまり、あがり症の方はあがることは避けられないのです。
普通の人でさえあがるのに、ましてやあがり症なんです。

それをあがらないようになどと言うのは、それこそ神への挑戦のようなものです。

むしろ、あがったうえでどうするのかというあり方こそが大切なものとなります。

あがり症の方は他人にどう思われたかばかりを考え自分をなくします。
あるいは、未来への不安と過去の後悔に囚われ今を失くします。

今ここの自分に帰る必要があるのです。
今ここを取り戻す必要があるのです。

では、今ここを取り戻すにはどうすれば良いのでしょうか?

それは、あがろうがあがるまいが、今ここでできることに集中すること。

文章を読み上げるのならば、たとえ緊張したとしても聞いている人に伝わるように一語一語しっかり読み上げる。

お客様に商品の説明をしなければならないのなら、たとえあがっても分かりやすく説明する。

スピーチをしなければならないのなら、たとえ声が震えても相手に伝わったかどうかに意識を集中する。

大切なことは今この場の目的です。
今ここでのあなたのなすべき目的は何なのか?

その目的に集中できた時、あがり症を治さずしてあがり症を忘れている瞬間が次第に増えていくに違いありません。