八方美人は叶わぬ望み

私の職場には学校で学んでいる実習生がたまに来ます。
社会福祉士と呼ばれる資格を取るための専門学校に通っている学生が、実際の職場実習をして学びを深めると言うものです。

先日、Aさんという方が来られました。
30代ぐらいの方でしょうか、物腰柔らかな方です。

たまたま、その日は私は外出することなく、一日中面談でした。
計5、6件面談しましたが、うつの方の悩み事相談とか、知的障害者の方とのワイワイ楽しい面談とか、バラエティに富んだ面接が行われました。

その面談全てに、相手の了解を得てですが、Aさんは同席しました。
福祉の資格を取るための勉強している方ですが同席してもいいですか?と了解を得て同席するのです。

実際には私の隣に座って何か言うわけでもなく、ただ、面談の様子を見るだけです。
そして教科書の勉強ではなく、リアル場面で面接の応対をどういったふうにやっているかを学ぶわけです。

その中で、Aさんも何か感じるものがあったのでしょう。
面談の合間に私に質問してきました。

Aさんは働きながら学んでいる学生さんですが、「職場で誰に対してもいい顔をしてしまう。
感情を抑え込んでしまう。
あまり良くないと思うがどうしたら良いか?」とのことです。

私は答えました。
「八方美人をやってしまうんですよね?」
Aさんは頷きます。

そして続けました。
「そうありたい気持ちは分かりますが、それは現実的に不可能です。いかなる人でも合う合わないは絶対あるのです。」

「仮に万が一、周りの全ての人に対して八方美人が成功したとして、それは八方美人なのではなく、実は自分自身をこそ傷つけているのです」と。

「周りの全ての人とうまくやろうとして自分自身の本当の気持ちは脇に置いておいて、相手に迎合してしまうのです。」

Aさんは「その通りです」と言います。
「自分の気持ちを抑え込んでしまってひたすら我慢する」と。

どうやらムッときても言いたいこと言わずに我慢してしまうようです。
「どうしたら良いか分からない。こんなんだから本音で話せる友達もいない。どうしたら良いのでしょうか?」と真剣に聞いてきます。

私は答えました。
「感情で言うのではなく感情を言うことです」と。
「???」

「何か言われた時、不満に思って「なんで?!」とか怒って言うことができないんですよね?」
「はい」
「ならばガーッと感情のままに言うのではなく、今の感情を伝えるのです」
「?」
「私はそう言われると傷つきます、とか、そんなこと言われると嫌な気持になります、と感情を伝えるのです。そういう風に相手に言えた時、相手は意外に反発できなくなってテンションが下がるんです」
「!」
「そして主語に「お前は」と付けるのではなく「私は」を主語にすること。なんでお前はそうなんだとか、どうしてお前は~と言うのではなく、私は~を主語にすること」

そうして実際のシーンを想定して、良いパターン悪いパターンをお互いに役割を交代して
やってもらいました。

Aさんは何らかの気付きがあったようです。
表情がホッとしたような感じになってお帰りになりました。
私もそれを見て安心しました。
・・・・・

あれれれ?
よくよく考えるとAさんは私の所にカウンセリングに来たのではなく、勉強しに来たんだけど?という一日でした。

 

市役所窓口の方の質

精神科に通院したり精神保健福祉手帳をお持ちの方は何かと役所に行くことが多いでしょう。
私も仕事柄、なにかと役所と絡むことが多いです。

やれ、手帳の申請だ、更新だ。
やれ、自立支援医療の申請だ、更新だ。
やれ、障害年金の申請だ、更新だ。
施設入所手続きだ。
計画相談だ。
課税証明だ。
なんだかんだ・・・

私も主な制度や手続きのことは理解しているとは思うのですが、いや~、難解ですね。
新しい制度ができると、またまた、わけが分からなくなる。

我々でさえそうなのだから、当事者の皆さんにはチンプンカンプンのことがきっとままあることでしょう。

先日こんなことがありました。
私が支援しているAさんという方が就労移行支援事業所という所を見学し、体験実習することとなりました。
そこで今後のことで手続きがあるため、Aさんと一緒に市役所に行きました。
ちなみにAさんの疾患名は統合失調症で、発達障害の傾向もあります。

障害者部門の窓口に行き、担当の人が出てきました。
いつも融通があまり聞かなくて素っ気ない方です。

あちゃちゃ、という思いも若干ありましたが、手続きはそんなに難しくないし私も隣にいるからまぁ大丈夫だろうと思っていました。

その方は、ちゃちゃちゃっと、説明をしていきます。
Aさんは発達障害の傾向があるので、ややこしくなるとなかなか理解が入りづらくなります。
なので、次第に顔に?マークが出てきました。

まぁ、あくまで私の常識ですが、相手が分からなそうなら普通気付くし、そうなったらやや丁寧に説明し直すのが普通です。

ところがその窓口の方は構わず続けます。
しかも説明が下手です。
「体験は何日からとのことですけど暫定が何日からしか付かないので支給決定が~、事業所の実習の日程が~」
Aさんは益々???です。

見ていられません。
介入です。

「暫定って言われても何がなんだか分からないよね。いや、ホンッと難しいのよ。それは~これこれこうで~」
若干、顔が和らぎます。

そして窓口の人が再び説明に入ります。
「計画相談が~聞き取りになります」

???
Aさんはかわいい女性なのですが眉間に皺ができます。

はぁ~、って感じです。
障害の説明の所で、発達障害の傾向があると伝えているのです。
発達障害の特徴は空気読めないとかコミュニケーションに困難さを抱えています。

んなもん分かるわけねぇだろ、と内心思いつつ再び介入です。
横にいるAさんの顔を見ると、あちゃあ~、Aさんにもうダメスイッチの表情が出ています。

「もう、福祉の制度ってさっぱり分かんないよね~、いや分かんないのが普通だから。Aさんはこれだけこうすれば良くて、あとは市役所と事業所のやり取りだから、Aさんには関係ないから」
などと言ってほぐしながら説明しました。

Aさんはようやく落ち着いてきましが、きっと相当混乱したと思います。

市役所の障害者の窓口の人は、なにも専門的知識を持っているとは限りません。
大体3年に一回ぐらいの頻度で土木科とか財政課といったような各部署を異動するのです。

誤解を恐れず言うのなら、全く障害のことを知らない人がいきなり窓口に来ることもあるわけです。
もちろん、中には精神保健福祉士の資格などを取って熱心にやっている人もいます。
ハッキリ言いすぎれば、ピンキリなんです(福祉職に就く我々も含めて)。

しかし、それでも思うのは障害の知識等は追々勉強していけばいいでしょうが、ただ、面談スキルは最優先で身に付けてほしいのです。
でないと、何らかの障害を抱えた方を傷付けることにもなり得るからです。
トラブルにもなるでしょう。

ということでピンときました。
いつかやろう、役所で窓口業務に携わる人のための面談スキルアップ研修を。